東京高等裁判所 昭和33年(う)350号 判決
被告人 長浜竜男
〔抄 録〕
控訴の趣意第一点について。
原判決の用語判文は弁護人の主張するように甚だ不正確であつてその意味のあいまいな箇所はあるが、記録を調査すると、原判決に指摘する被告人の司法警察員に対する各供述調書中には、被告人が古川民男から背広上衣、ズボン等の入質を依頼され、これを飯田質店に入質のあつ旋をした事実の供述記載があるのであるから、原判決の「賍物牙保の供述は全くなく」とは賍物たることの知情の点について何等供述がないという趣旨と解すべく、この部分とその他の判文全体とを併せて精読すると、結局原判決は、本件公訴事実中賍物たることの知情の点に関し、被告人の自白以外に補強証拠がないということのみを理由とし、公訴事実の証明なしとして本件起訴を排斥したものと認むべきである。
ところで賍物罪における知情の如き犯罪の主観的要件については、被告人の自白のみでこれを認定しても何等違法でないこと所論のとおりである。してみれば原判決が本件公訴事実たる犯罪の客観的構成要件の存否について全然判断することなく、また賍物たることの知情の点に関する被告人の自白の真実性の有無についても何等考慮することなく、単に前記の理由のみによつて被告人に無罪の言渡をしていることは、まさしく訴訟手続に関する法令に違反するものであつて、この違反が判決に影響を及ぼすことは明白である。論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。
控訴の趣意第二点について。
記録を調査し、原審において取り調べた各証拠をつぶさに検討し、これと当審の事実審理の結果とを併せ考えると、本件公訴事実たる被告人の賍物牙保の犯行は、十分これを認めることができるから、原判決が犯罪の証明がないとして被告人に無罪の言渡をしたのは、結局事実を誤認したことに帰し、この誤認が判決に影響を及ぼすことも明白であるから、論旨は理由があり、原判決はこの点においても破棄さるべきものである。
(滝沢 久永 八田)